生きていこう。
なんだか懐かしいような、胸の奥をくすぐる夏空。
ようやく響き始めたセミたちの声。ゆるやかな坂道。
お父さんとのお散歩にはしゃぐトイプードル。
静まり返った校舎。隆起する積乱雲。
求めていた、少しのんびりした夏休みの空気。
生きていく間には、きっとたくさんの喜びや哀しみに出くわすんだろうな。
いつまでも忘れたくない楽しいことや、ふんわりと降り積もるようなシアワセ。
どうしても納得出来ないことも、受け入れ難い現実も。
大切なものを手放したくない欲張りな私は、失うということがとても怖い。
誰だってそうか。そうだよね。普段口に出さないだけで。
きっとみんな、そうして傷ついたり擦り減ったりしながら、生きていく。
また人と出会い、喜びを見つけ、お薬みたいにそれを傷に塗りながら。
でも時には、埋めようのない大きな穴が、心に空くことがある。
探しても探しても、代わりに詰めておくものが見当たらないような。
もしどうしようもないなら、それはもうそのままでいいんじゃないかと思う。
空けっ放しでさ、生きていこうじゃないかと。
それもひっくるめて、全部忘れないように。
そんなことを、考えた日。
生まれたことと、生きていることが、ありがたくてね。