花便り
新しいレンズをカチリと装着する瞬間、体温がほんの少し上昇する。
覗き込むと、肉眼とはまた違った世界が見えてくるんだ。
毎日歩く桜並木。
冬の鋭く澄んだ空気はいつの間にか緩み、朝の柔らかな陽が滲んで溶けている。
キラキラした花のトンネルを、ブロンドヘアの美女ガーが走り抜けていく。
いつものお散歩中のわんことは、すれ違い様にジッと見つめ合い、
「おはよ。」と心の中でコッソリ挨拶をする。時々、小さく手を振ったり。
わんこのお母さんはたぶん、気づいてない。
好きな時間。
桜の時期、この川沿いは人で溢れる。
人混みが好きな人なんて、きっとあまりいないだろう。
もちろん私もずっとそうだったんだけど。
でもいつからか、こうして何かを楽しむために人が集まることに、悪い気はしなくなった。
家族や友達や恋人と楽しそうに歩いているのを見ると、知らない人たちでも嬉しくなる。
ピリピリした通勤ラッシュや、節度なく大騒ぎする人混みはやっぱり苦手だけどね。
とにかく春は、すこぶる機嫌がいい。